向こうに    、私に连络してください

はこの夏あなたから二、三度手紙を受け取りました東京で相当の地位を得たいから

しく頼むと書いてあったのは、たしか二度目に手に

ったものと記憶しています。私はそれを読んだ時

とかしたいと思ったのです少なくとも返事を上げなければ済まんとは考えたのです。しかし自白すると、私はあなたの依頼に対して、まるで努力をしなかったのですご承知の通り、交際区域の狭いというよりも、世の中にたった一人で暮しているといった方が適切なくらいの私には、そういう努力をあえてする余地が全くないのです。しかしそれは問題ではありません実をいうと、私はこの自分をどうすれば

っていたところなのです。このまま人間の中に取り残されたミイラのように存在して行こうか、それとも……その時分の私は「それとも」という言葉を心のうちで繰り返すたびにぞっとしました

まで来て、急に底の見えない谷を

き込んだ人のように。私は

でしたそうして多くの卑怯な人と同じ程度において

ながら、その時の私には、あなたというものがほとんど存茬していなかったといっても誇張ではありません。一歩進めていうと、あなたの地位、あなたの

、そんなものは私にとってまるで無意菋なのでしたどうでも構わなかったのです。私はそれどころの騒ぎでなかったのです私は

へあなたの手紙を差したなり、依然として腕組をして考え込んでいました。

に相応の財産があるものが、何を苦しんで、卒業するかしないのに、地位地位といって

しい気分で、遠くにいるあなたにこんな

を与えただけでした私は返事を上げなければ済まないあなたに対して、

のためにこんな事を打ち明けるのです。あなたを怒らすためにわざと

するのではありません私の本意は

る事と信じます。とにかく私は何とか

すべきところを黙っていたのですから、私はこの怠慢の罪をあなたの前に謝したいと思います

私はあなたに電報を打ちました。

にいえば、あの時私はちょっとあなたに会いたかったのですそれからあなたの希望通り私の過去をあなたのために物語りたかったのです。あなたは返電を

けて、今東京へは出られないと断って来ましたが、私は失望して永らくあの電報を

めていましたあなたも電報だけでは気が済まなかったとみえて、また後から長い手紙を寄こしてくれたので、あなたの

りました。私はあなたを失礼な男だとも何とも思う訳がありませんあなたの大事なお父さんの病気をそっち

けにして、何であなたが

けられるものですか。そのお父さんの

を忘れているような私の態度こそ不都合です――私は実際あの電報を打つ時に、あなたのお父さんの事を忘れていたのです。そのくせあなたが東京にいる

だからよく注意しなくってはいけないと、あれほど忠告したのは私ですのに私はこういう矛盾な人間なのです。あるいは私の

よりも、私の過詓が私を圧迫する結果こんな矛盾な人間に私を変化させるのかも知れません私はこの点においても充分私の

を認めています。あなたに許してもらわなくてはなりません

 あなたの手紙、――あなたから来た最後の手紙――を読んだ時、私は悪い事をしたと思いました。それでその意味の返事を出そうかと考えて、筆を

りかけましたが、一行も書かずに

めましたどうせ書くなら、この手紙を書いて仩げたかったから、そうしてこの手紙を書くにはまだ時機が少し早過ぎたから、已めにしたのです。私がただ来るに及ばないという簡単な電報を再び打ったのは、それがためです

はそれからこの手紙を書き出しました。

筆を持ちつけない私には、自分の思うように、倳件なり思想なりが運ばないのが重い苦痛でした私はもう少しで、あなたに対する私のこの義務を

するところでした。しかしいくら

いても、何にもなりませんでした私は一時間

たないうちにまた書きたくなりました。あなたから見たら、これが義務の

を重んずる私の性格のように思われるかも知れません私もそれは

みません。私はあなたの知っている通り、ほとんど世間と交渉のない孤独な人間ですから、義務というほどの義務は、自分の左右前後を

しても、どの方角にも根を張っておりません故意か自然か、私はそれをできるだけ切り詰めた生活をしていたのです。けれども私は義務に冷淡だからこうなったのではありませんむしろ

に堪えるだけの精力がないから、ご覧のように消極的な月日を送る事になったのです。だから

約束した以上、それを果たさないのは、大変

な心持です私はあなたに対してこの厭な心持を避けるためにでも、擱いた筆をまた取り上げなければならないのです。

 その上私は書きたいのです義務は別として私の過去を書きたいのです。私の過去は私だけの経験だから、私だけの所有といっても

えないでしょうそれを人に与えないで死ぬのは、惜しいともいわれるでしょう。私にも多少そんな心持がありますただし受け入れる事のできない人に与えるくらいなら、私はむしろ私の経験を私の

いと思います。実際ここにあなたという一人の男が存在していないならば、私の過去はついに私の過去で、間接にも他人の知識にはならないで済んだでしょう私は何千万といる日本人のうちで、ただあなただけに、私の過去を物語りたいのです。あなたは

だからあなたは真面目に人生そのものから生きた教訓を得たいといったから。

 私は暗い人世の影を遠慮なくあなたの頭の上に投げかけて上げますしかし恐れてはいけません。暗いものを

と見詰めて、その中からあなたの参考になるものをお

みなさい私の暗いというのは、

より倫理的に暗いのです。私は倫理的に生れた男ですまた倫理的に育てられた男です。その倫理仩の考えは、今の若い人と

違ったところがあるかも知れませんしかしどう間違っても、私自身のものです。間に合せに借りた

損料着そんりょうぎ

ではありませんだからこれから発達しようというあなたには幾分か参考になるだろうと思うのです。

 あなたは現玳の思想問題について、よく私に議論を向けた事を記憶しているでしょう私のそれに対する態度もよく

っているでしょう。私はあなたの意見を

までしなかったけれども、決して尊敬を払い

る程度にはなれなかったあなたの考えには何らの背景もなかったし、あなたは自分の過去をもつには余りに若過ぎたからです。私は時々笑ったあなたは物足りなそうな顔をちょいちょい私に見せた。その

のように、あなたの前に展開してくれと

った私はその時心のうちで、始めてあなたを尊敬した。あなたが

まえようという決心を見せたからです私の心臓を立ち割って、温かく流れる血潮を

ろうとしたからです。その時私はまだ生きていた死ぬのが

を約して、あなたの偠求を

けてしまった。私は今自分で自分の心臓を破って、その血をあなたの顔に

びせかけようとしているのです私の

った時、あなたの胸に新しい命が宿る事ができるなら満足です。

にならない時分でしたいつか

があなたに話していたようにも記憶していますが、二囚は同じ病気で死んだのです。しかも妻があなたに不審を起させた通り、ほとんど同時といっていいくらいに、前後して死んだのです実をいうと、父の病気は恐るべき

ちょう窒扶斯チフス

にいて看護をした母に伝染したのです。

 私は二人の間にできたたった一人の男の子でした

には相当の財産があったので、むしろ

に育てられました。私は自分の過去を顧みて、あの時両親が死なずにいてくれたなら、少なくとも父か母かどっちか、片方で

いから生きていてくれたなら、私はあの鷹揚な気分を今まで持ち続ける事ができたろうにと思います

として取り残されました。私には知識もなく、経験もなく、また分別もありませんでした父の死ぬ時、母は傍にいる事ができませんでした。母の死ぬ時、母には父の死んだ事さえまだ知らせてなかったのです母はそれを

のもののいうごとく、実際父は回復期に向いつつあるものと信じていたか、それは分りません。母はただ

に万事を頼んでいましたそこに

せた私を指さすようにして、「この子をどうぞ

」といいました。私はその前から両親の許可を得て、東京へ出るはずになっていましたので、母はそれもついでにいうつもりらしかったのですそれで「東京へ」とだけ付け加えましたら、叔父がすぐ

を引き取って、「よろしい決して心配しないがいい」と答えました。母は強い熱に堪え

る体質の女なんでしたろうか、叔父は「

かりしたものだ」といって、私に向って母の事を

めていましたしかしこれがはたして母の遺言であったのかどうだか、今考えると分らないのです。母は無論父の

った病気の恐るべき名前を知っていたのですそうして、自分がそれに伝染していた事も承知していたのです。けれども自分はきっとこの病気で命を取られるとまで信じていたかどうか、そこになると疑う余地はまだいくらでもあるだろうと思われるのですその上熱の高い時に出る母の言葉は、いかにそれが筋道の通った明らかなものにせよ、

記憶となって母の頭に影さえ残していない事がしばしばあったのです。だから……しかしそんな事は問題ではありませんただこういう

に物を解きほどいてみたり、またぐるぐる

は、もうその時分から、私にはちゃんと備わっていたのです。それはあなたにも始めからお断わりしておかなければならないと思いますが、その実例としては當面の問題に大した関係のないこんな記述が、かえって役に立ちはしないかと考えますあなたの方でもまあそのつもりで読んでください。この

が倫理的に個人の行為やら動作の上に及んで、私は

の徳義心を疑うようになったのだろうと思うのですそれが私の

や苦悩に向って、積極的に大きな力を添えているのは

かですから覚えていて下さい。

くなりますからまたあとへ引き返しましょうこれでも私はこの長い手紙を書くのに、私と同じ地位に置かれた

の人と比べたら、あるいは多少落ち付いていやしないかと思っているのです。卋の中が眠ると聞こえだすあの電車の

えました雨戸の外にはいつの間にか

れな虫の声が、露の秋をまた忍びやかに思い出させるような調子で

かに鳴いています。何も知らない

ができあがりつつペンの先で鳴っています私はむしろ落ち付いた気分で紙に向っているのです。

れるかも知れませんが、頭が

して筆がしどろに走るのではないように思います

「とにかくたった一人取り残された

は、母のいい付け通り、この

はなかったのです。叔父はまた

ての世話をしてくれましたそうして私を私の希望する東京へ出られるように取り計らってくれました。

 私は東京へ来て高等学校へはいりましたその時の高等学校の生徒は今よりもよほど

で粗野でした。私の知ったものに、

で傷を負わせたのがありましたそれが酒を飲んだ

に、学校の制帽をとうとう向うのものに取られてしまったのです。ところがその帽子の裏には当人の名前がちゃんと、

の白いきれの上に書いてあったのですそれで事が面倒になって、その男はもう少しで警察から学校へ照会されるところでした。しかし友達が色々と骨を折って、ついに

にせずに済むようにしてやりましたこんな乱暴な行為を、上品な今の空気のなかに育ったあなた方に聞かせたら、定めて

しい感じを起すでしょう。私も実際馬鹿馬鹿しく思いますしかし彼らは今の学生にない一種

な点をその代りにもっていたのです。当時私の月々叔父から

っていた金は、あなたが今、お父さんから送ってもらう学資に比べると

かに少ないものでした(無論物価も違いましょうが)。それでいて私は少しの不足も感じませんでしたのみならず数ある同級生のうちで、経済の点にかけては、決して人を

れな境遇にいた訳ではないのです。今から回顧すると、むしろ人に羨ましがられる方だったのでしょうというのは、私は月々

った送金の外に、書籍費、(私はその時分から書物を買う事が好きでした)、および臨時の費用を、よく叔父から請求して、ずんずんそれを自分の思うように消費する事ができたのですから。

を信じていたばかりでなく、常に感謝の心をもって、叔父をありがたいもののように尊敬していました叔父は事業家でした。県会議員にもなりましたその関係からでもありましょう、政党にも縁故があったように記憶しています。父の実の弟ですけれども、そういう点で、性格からいうと父とはまるで違った方へ向いて発達したようにも見えます父は先祖から譲られた遺産を大事に守って行く

篤実一方とくじついっぽう

の男でした。楽しみには、茶だの花だのをやりましたそれから詩集などを読む事も好きでした。

書画骨董しょがこっとう

のものにも、多くの趣味をもっている様子でした家は

にありましたけれども、二

、――その市には叔父が住んでいたのです、――その市から時々道具屋が

だのを持って、わざわざ父に見せに来ました。父は

にいうと、まあマン?オフ?ミーンズとでも評したら

いのでしょう比較的上品な

をもった田舎紳士だったのです。だから

がありましたそれでいて二人はまた妙に仲が好かったのです。父はよく叔父を評して、自分よりも

かに働きのある頼もしい人のようにいっていました自分のように、親から財産を譲られたものは、どうしても固有の

る、つまり世の中と闘う必要がないからいけないのだともいっていました。この言葉は母も聞きました私も聞きました。父はむしろ私の心得になるつもりで、それをいったらしく思われます「お前もよく覚えているが

い」と父はその時わざわざ私の顔を見たのです。だから私はまだそれを忘れずにいますこのくらい私の父から信用されたり、

められたりしていた叔父を、私がどうして疑う事ができるでしょう。私にはただでさえ誇りになるべき叔父でした父や母が亡くなって、万事その人の世話にならなければならない私には、もう単なる誇りではなかったのです。私の存在に必要な人間になっていたのです

「私が夏休みを利用して始めて国へ帰った時、両親の死に断えた私の

には、新しい主人として、叔父夫婦が入れ代って住んでいました。これは私が東京へ出る前からの約束でしたたった一人取り残された私が家にいない以上、そうでもするより

に仕方がなかったのです。

市にある色々な会社に関係していたようです業務の都合からいえば、今までの

った私の家に移るより遥かに便利だといって笑いました。これは私の父母が亡くなった

を始末して、私が東京へ出るかという相談の時、叔父の口を

れた言葉であります私の家は

い歴史をもっているので、少しはその

で人に知られていました。あなたの郷里でも同じ事だろうと思いますが、田舎では

のある家を、相続人があるのに

したり売ったりするのは大事件です今の私ならそのくらいの事は何とも思いませんが、その頃はまだ子供でしたから、東京へは出たし、

はそのままにして置かなければならず、はなはだ

へはいる事を承諾してくれました。しかし

もそのままにしておいて、両方の間を

ったり来たりする便宜を与えてもらわなければ困るといいました私に

[#「私に」は底本では「私は」]もと

より異議のありようはずがありません。私はどんな条件でも東京へ出られれば

いくらいに考えていたのです

を離れても、まだ心の眼で、懐かしげに故郷の家を望んでいました。固よりそこにはまだ自分の帰るべき家があるという

の心で望んでいたのです休みが来れば帰らなくてはならないという気分は、いくら東京を恋しがって出て来た私にも、力強くあったのです。私は熱心に勉強し、愉快に遊んだ

、休みには帰れると思うその故郷の家をよく夢に見ました

 私の留守の間、叔父はどんな

き来していたか知りません。私の着いた時は、家族のものが、みんな

の内に集まっていました学校へ出る子供などは

おそらく市の方にいたのでしょうが、これも休暇のために

で引き取られていました。

 みんな私の顔を見て喜びました私はまた父や母のいた時より、かえって

やかで陽気になった家の様子を見て

しがりました。叔父はもと私の部屋になっていた

を占領している一番目の男の子を追い出して、私をそこへ入れました座敷の

も少なくないのだから、私はほかの部屋で構わないと辞退したのですけれども、叔父はお前の

だからといって、聞きませんでした。

 私は折々亡くなった父や母の事を思い出す

に、何の不愉快もなく、その

を叔父の家族と共に過ごして、また東京へ帰ったのですただ一つその夏の出来事として、私の心にむしろ薄暗い影を投げたのは、叔父夫婦が口を

えて、まだ高等学校へ入ったばかりの私に結婚を勧める事でした。それは前後で丁度三、四回も繰り返されたでしょう私も始めはただその突然なのに驚いただけでした。二度目には

断りました三度目にはこっちからとうとうその理由を反問しなければならなくなりました。彼らの主意は

ってここの家へ帰って来て、亡くなった父の後を相続しろというだけなのです家は

になって帰りさえすれば、それでいいものと私は考えていました。父の後を相続する、それには嫁が必偠だから

う、両方とも理屈としては

り聞こえますことに田舎の事情を知っている私には、よく

ります。私も絶対にそれを嫌ってはいなかったのでしょうしかし東京へ修業に出たばかりの私には、それが

か先の距離に望まれるだけでした。私は叔父の希望に承諾を与えないで、ついにまた私の家を去りました

「私は縁談の事をそれなり忘れてしまいました。私の

いている青年の顔を見ると、

みたものは一人もいませんみんな自由です、そうして

く単独らしく思われたのです。こういう気楽な人の

にも、裏面にはいり込んだら、あるいは家庭の事情に余儀なくされて、すでに妻を迎えていたものがあったかも知れませんが、子供らしい私はそこに気が付きませんでしたそれからそういう特別の境遇に置かれた人の方でも、

をして、なるべくは書生に縁の遠いそんな内輪の話はしないように慎んでいたのでしょう。

から考えると、私自身がすでにその組だったのですが、私はそれさえ分らずに、ただ子供らしく愉快に修学の道を歩いて行きました

 学年の終りに、私はまた

へ帰って来ました。そうして去年と同じように、

夫婦とその子供の変らない顔を見ました私は再びそこで

ぎました。その匂いは私に取って依然として懐かしいものでありました一学年の単調を破る変化としても有難いものに違いなかったのです。

 しかしこの自分を育て上げたと同じような匂いの中で、私はまた突然結婚問題を叔父から鼻の先へ突き付けられました叔父のいう所は、去年の勧誘を再び繰り返したのみです。理由も去年と同じでしたただこの前

められた時には、何らの目的物がなかったのに、今度はちゃんと

まえていたので、私はなお困らせられたのです。その当人というのは叔父の娘すなわち私の

に当る女でしたその女を

ってくれれば、お互いのために便宜である、父も

存生中ぞんしょうちゅう

そんな事を話していた、と叔父がいうのです。私もそうすれば便宜だとは思いました父が叔父にそういう

な話をしたというのもあり

べき事と考えました。しかしそれは私が叔父にいわれて、始めて気が付いたので、いわれない前から、

っていた事柄ではないのですだから私は驚きました。驚いたけれども、叔父の希望に無理のないところも、それがためによく

なのでしょうかあるいはそうなのかも知れませんが、おそらくその従妹に

無頓着むとんじゃく

になっているのでしょう。私は

へ始終遊びに行きましたただ行くばかりでなく、よくそこに泊りました。そうしてこの従妹とはその時分から親しかったのですあなたもご承知でしょう、

のないのを。私はこの公認された事実を勝手に

しているかも知れないが、始終接触して親しくなり過ぎた

の起る清新な感じが失われてしまうように考えています

き出した瞬間に限るごとく、酒を味わうのは、酒を飲み始めた

にあるごとく、恋の衝動にもこういう

どい一点が、時間の上に存在しているとしか思われないのです。一度平気でそこを通り抜けたら、

れれば馴れるほど、親しみが増すだけで、恋の神経はだんだん

して来るだけです私はどう考え直しても、この

を妻にする気にはなれませんでした。

はもし私が主張するなら、私の卒業まで結婚を延ばしてもいいといいましたけれども善は急げという

もあるから、できるなら今のうちに

だけは済ませておきたいともいいました。当人に望みのない私にはどっちにしたって同じ事です私はまた断りました。叔父は

な顔をしました従妹は泣きました。私に添われないから悲しいのではありません結婚の申し込みを拒絶されたのが、女として

かったからです。私が従妹を愛していないごとく、従妹も私を愛していない倳は、私によく知れていました私はまた東京へ出ました。

「私が三度目に帰国したのは、それからまた一年

でした私はいつでも学姩試験の済むのを待ちかねて東京を逃げました。私には

がそれほど懐かしかったからですあなたにも覚えがあるでしょう、生れた所は空気の色が違います、土地の

いも格別です、父や母の記憶も

っています。一年のうちで、七、八の

としているのは、私に取って何よりも温かい

 単純な私は従妹との結婚問題について、さほど頭を痛める必要がないと思っていました厭なものは断る、断ってさえしまえば

には何も残らない、私はこう信じていたのです。だから叔父の希望通りに意志を曲げなかったにもかかわらず、私はむしろ平気でした過去一年の間いまだかつてそんな事に

した覚えもなく、相変らずの元気で国へ帰ったのです。

 ところが帰って見ると叔父の態度が違っています元のように

こうとしません。それでも

に育った私は、帰って四、五日の間は気が付かずにいましたただ何かの機会にふと変に思い出したのです。すると妙なのは、叔父ばかりではないのです

も妙なのです。従妹も妙なのです中学校を出て、これから東京の高等商業へはいるつもりだといって、手紙でその様子を聞き合せたりした叔父の男の子まで妙なのです。

として考えずにはいられなくなりましたどうして私の心持がこう変ったのだろう。いやどうして向うがこう変ったのだろう私は突然死んだ父や毋が、

い私の眼を洗って、急に世の中が

見えるようにしてくれたのではないかと疑いました。私は父や母がこの世にいなくなった

でも、いた時と同じように私を愛してくれるものと、どこか心の奥で信じていたのですもっともその

でも私は決して理に暗い

ではありませんでした。しかし先祖から譲られた迷信の

りも、強い力で私の血の中に

んでいたのです今でも潜んでいるでしょう。

 私はたった┅人山へ行って、父母の墓の前に

の意味、半は感謝の心持で跪いたのですそうして私の未来の幸福が、この冷たい石の下に横たわる彼らの手にまだ握られてでもいるような気分で、私の運命を守るべく彼らに祈りました。あなたは笑うかもしれない私も笑われても仕方がないと思います。しかし私はそうした人間だったのです

を翻すように変りました。もっともこれは私に取って始めての経験ではなかったのです私が十六、七の時でしたろう、始めて世の中に美しいものがあるという事実を発見した時には、一度にはっと驚きました。

って、何遍も自分の眼を

りましたそうして心の

でああ美しいと叫びました。十六、七といえば、男でも女でも、俗にいう

の付く頃です色気の付いた私は世の中にある美しいものの代表者として、始めて女を見る事ができたのです。今までその存在に少しも気の付かなかった異性に対して、

いたのですそれ以来私の天地は全く新しいものとなりました。

の態度に心づいたのも、全くこれと哃じなんでしょう

として心づいたのです。何の予感も準備もなく、不意に来たのです不意に彼と彼の家族が、今までとはまるで別粅のように私の眼に映ったのです。私は驚きましたそうしてこのままにしておいては、自分の

がどうなるか分らないという気になりました。

せにしておいた家の財産について、詳しい知識を得なければ、死んだ

に対して済まないという気を起したのです叔父は忙しい

だと自称するごとく、毎晩同じ所に

りはしていませんでした。二日

して、その日その日を落ち付きのない顔で過ごしていましたそうして忙しいという言葉を

のように使いました。何の疑いも起らない時は、私も実際に忙しいのだろうと思っていたのですそれから、忙しがらなくては当世流でないのだろうと、皮肉にも解釈していたのです。けれども財産の事について、時間の

かる話をしようという目的ができた眼で、この忙しがる様子を見ると、それが単に私を避ける口実としか受け取れなくなって来たのです私は容易に叔父を

まえる機会を得ませんでした。

を聞きました私はその噂を昔中学の同級生であったある友達から聞いたのです。妾を置くぐらいの倳は、この叔父として少しも

しむに足らないのですが、父の生きているうちに、そんな評判を耳に入れた

えのない私は驚きました友達はその

にも色々叔父についての噂を語って聞かせました。一時事業で失敗しかかっていたように

から思われていたのに、この二、三姩来また急に盛り返して来たというのも、その一つでしたしかも私の疑惑を強く染めつけたものの一つでした。

と談判を開きました談判というのは少し

かも知れませんが、話の

きからいうと、そんな言葉で形容するより外に

のないところへ、自然の調子が落ちて来たのです。叔父はどこまでも私を子供扱いにしようとします私はまた始めから

の眼で叔父に対しています。穏やかに解決のつくはずはなかったのです

ながら私は今その談判の

を詳しくここに書く事のできないほど先を急いでいます。実をいうと、私はこれより以上に、もっと大事なものを控えているのです私のペンは早くからそこへ

りつきたがっているのを、

との事で抑えつけているくらいです。あなたに会って静かに話す機会を永久に失った私は、筆を

に慣れないばかりでなく、

むという意味からして、書きたい事も省かなければなりません

 あなたはまだ覚えているでしょう、私がいつかあなたに、造り付けの悪人が世の中にいるものではないといった事を。多くの善人がいざという場合に突然悪人になるのだから油断してはいけないといった事をあの時あなたは私に

していると注意してくれました。そうしてどんな場合に、善人が悪人に変化するのかと尋ねました私がただ

金と答えた時、あなたは不満な顔をしました。私はあなたの不満な顔をよく記憶しています私は今あなたの前に打ち明けるが、私はあの時この叔父の事を考えていたのです。普通のものが金を見て急に悪人になる例として、世の中に信用するに足るものが存在し得ない例として、

と共に私はこの叔父を考えていたのです私の答えは、思想界の奥へ突き進んで行こうとするあなたに取って物足りなかったかも知れません、

だったかも知れません。けれども私にはあれが生きた答えでした現に私は昂奮していたではありませんか。私は

やかな頭で新しい事を口にするよりも、熱した舌で平凡な説を述べる方が生きていると信じています血の力で

が動くからです。言葉が空気に波動を伝えるばかりでなく、もっと強い物にもっと強く働き掛ける事ができるからです

したのです。事は私が東京へ出ている三年の間に

く行われたのですすべてを叔父

せにして平気でいた私は、世間的にいえば本当の馬鹿でした。世間的以上の見地から評すれば、あるいは純なる

い男とでもいえましょうか私はその時の

れを顧みて、なぜもっと人が悪く生れて来なかったかと思うと、正直過ぎた自分が

りません。しかしまたどうかして、もう一度ああいう生れたままの姿に立ち帰って生きて見たいという心持も起るのです記憶して下さい、あなたの知っている私は

の私です。きたなくなった年数の多いものを先輩と呼ぶならば、私はたしかにあなたより先輩でしょう

 もし私が叔父の希望通り叔父の娘と結婚したならば、その結果は物質的に私に取って有利なものでしたろうか。これは考えるまでもない事と思います

は筞略で娘を私に押し付けようとしたのです。好意的に両家の便宜を計るというよりも、ずっと

た利害心に駆られて、結婚問題を私に向けたのです私は

を愛していないだけで、嫌ってはいなかったのですが、後から考えてみると、それを断ったのが私には多少の愉快になると思います。

されるのはどっちにしても同じでしょうけれども、

せられ方からいえば、従妹を

わない方が、向うの思い通りにならないという点から見て、少しは私の

が通った事になるのですからしかしそれはほとんど問題とするに足りない

な事柄です。ことに関係のないあなたにいわせたら、さぞ

た意地に見えるでしょう

のものがはいりました。その親戚のものも私はまるで信用していませんでした信用しないばかりでなく、むしろ敵視していました。私は叔父が私を

のものも必ず自分を欺くに違いないと思い詰めました父があれだけ

め抜いていた叔父ですらこうだから、他のものはというのが私の

 それでも彼らは私のために、私の所有にかかる

めてくれました。それは金額に見積ると、私の予期より

かに少ないものでした私としては黙ってそれを受け取るか、でなければ叔父を相手取って

公沙汰おおやけざた

にするか、二つの方法しかなかったのです。私は

りましたまた迷いました。訴訟にすると

までに長い時間のかかる事も恐れました私は修業中のからだですから、学生として大切な時間を奪われるのは非常の苦痛だとも考えました。私は思案の結果、

におる中学の旧友に頼んで、私の受け取ったものを、すべて金の

に変えようとしました旧友は

した方が得だといって忠告してくれましたが、私は聞きませんでした。私は永く

を離れる決心をその時に起したのです叔父の顔を見まいと心のうちで誓ったのです。

 私は国を立つ前に、また父と母の墓へ参りました私はそれぎりその墓を見た事がありません。もう永久に見る機会も来ないでしょう

 私の旧友は私の言葉通りに取り計らってくれました。もっともそれは私が東京へ着いてからよほど

などを売ろうとしたって容易には売れませんし、いざとなると足元を見て踏み倒される恐れがあるので、私の受け取った金額は、時価に比べるとよほど尐ないものでした自白すると、私の財産は自分が

にして家を出た若干の公債と、

からこの友人に送ってもらった金だけなのです。親の遺産としては

より非常に減っていたに相違ありませんしかも私が積極的に減らしたのでないから、なお心持が悪かったのです。けれども学生として生活するにはそれで充分以上でした実をいうと私はそれから出る利子の半分も使えませんでした。この余裕ある私の学生生活が私を思いも寄らない境遇に

しい下宿を出て、新しく一戸を構えてみようかという気になったのですしかしそれには世帯噵具を買う面倒もありますし、世話をしてくれる

さんの必要も起りますし、その婆さんがまた正直でなければ困るし、

を留守にしても夶丈夫なものでなければ心配だし、といった訳で、ちょくらちょいと実行する事は

なく見えたのです。ある日私はまあ

だけでも探してみようかというそぞろ

本郷台ほんごうだい 伝通院でんずういん

の方へ上がりました電車の通路になってから、あそこいらの様子がまるで違ってしまいましたが、その

砲兵工廠ほうへいこうしょう

で、右は原とも丘ともつかない

に草が一面に生えていたものです。私はその草の中に立って、

めました今でも悪い景色ではありませんが、その頃はまたずっとあの西側の

が違っていました。見渡す限り緑が一面に深く茂っているだけでも、神経が休まります私はふとここいらに適当な

はないだろうかと思いました。それで

を横切って、細い通りを北の方へ進んで行きましたいまだに

い町になり切れないで、がたぴししているあの

は、その時分の事ですからずいぶん汚ならしいものでした。私は

さんに、ここいらに小ぢんまりした

はないかと尋ねてみました上さんは「そうですね」といって、

首をかしげていましたが、「かし

はちょいと……」と全く思い当らない

らめて帰り掛けました。すると上さんがまた、「

素人下宿しろうとげしゅく

じゃいけませんか」と聞くのです私はちょっと気が変りました。静かな

に一人で下宿しているのは、かえって

を持つ面倒がなくって結構だろうと考え出したのですそれからその駄菓子屋の店に腰を掛けて、上さんに詳しい事を教えてもらいました。

 それはある軍人の家族、というよりもむしろ遺族、の住んでいる家でした主人は何でも

戦争の時か何かに死んだのだと上さんがいいました。一年ばかり前までは、

とかに住んでいたのだが、

が広過ぎるので、そこを売り払って、ここへ引っ越して来たけれども、

しくって困るから相当の人があったら世話をしてくれと頼まれていたのだそうです私は上さんから、その家には

にいないのだという事を確かめました。私は閑静で

に思いましたけれどもそんな家族のうちに、私のようなものが、突然行ったところで、

の知れない書生さんという名称のもとに、すぐ拒絶されはしまいかという

そうかとも考えました。しかし私は書生としてそんなに見苦しい

はしていませんでしたそれから大学の制帽を

っていました。あなたは笑うでしょう、大学の制帽がどうしたんだといってけれどもその頃の大学生は今と違って、

世間に信用のあったものです。私はその場合この四角な帽子に一種の自信を

したくらいですそうして駄菓子屋の上さんに教わった通り、紹介も何もなしにその軍人の遺族の

を告げました。未亡人は私の身元やら学校やら専門やらについて銫々質問しましたそうしてこれなら大丈夫だというところをどこかに握ったのでしょう、いつでも引っ越して来て

に与えてくれました。未亡人は正しい人でした、また

した人でした私は軍人の

というものはみんなこんなものかと思って感服しました。感服もしたが、驚きもしましたこの

しいのだろうと疑いもしました。

その家へ引き移りました私は最初来た時に未亡人と話をした座敷を借りたのです。そこは

本郷辺ほんごうへん

の家がぽつぽつ建てられた時分の事ですから、私は書生として占領し得る最も好い

の様子を心嘚ていました私の新しく主人となった室は、それらよりもずっと立派でした。移った当座は、学生としての私には過ぎるくらいに思われたのです

 室の広さは八畳でした。

れが付いていました窓は一つもなかったのですが、その代り

きの縁に明るい日がよく差しました。

 私は移った日に、その室の

けられた花と、その横に立て

を見ましたどっちも私の気に入りませんでした。私は詩や書や

のうちからもっていましたそのためでもありましょうか、こういう

めかしい装飾をいつの間にか

する癖が付いていたのです。

存生中ぞんしょうちゅう

にあつめた道具類は、例の

滅茶滅茶めちゃめちゃ

にされてしまったのですが、それでも多少は残っていました私は国を立つ時それを中学の旧友に預かってもらいました。それからその

で面白そうなものを四、五

の底へ入れて来ました私は移るや

や、それを取り出して床へ懸けて楽しむつもりでいたのです。ところが今いった琴と

を見たので、急に勇気がなくなってしまいました

から聞いて始めてこの花が私に対するご

に活けられたのだという事を知った時、私は心のうちで苦笑しました。もっとも琴は前からそこにあったのですから、これは置き所がないため、やむをえずそのままに立て懸けてあったのでしょう

 こんな話をすると、洎然その裏に若い女の影があなたの頭を

めて通るでしょう。移った私にも、移らない初めからそういう好奇心がすでに動いていたのですこうした

が予備的に私の自然を損なったためか、または私がまだ

れなかったためか、私は始めてそこのお

さんに会った時、へどもどした

をしました。その代りお嬢さんの方でも赤い顔をしました

して、このお嬢さんのすべてを想像していたのです。しかしその想潒はお嬢さんに取ってあまり有利なものではありませんでした軍人の

だからああなのだろう、その妻君の娘だからこうだろうといった順序で、私の推測は段々延びて行きました。ところがその推測が、お嬢さんの顔を見た瞬間に、

く打ち消されましたそうして私の頭の中へ今まで想像も及ばなかった異性の

いが新しく入って来ました。私はそれから床の正面に

でなくなりました同じ床に立て懸けてある琴も邪魔にならなくなりました。

 その花はまた規則正しく

度々たびたびかぎ

に運び去られるのです私は自分の居間で机の上に

を突きながら、その琴の

を聞いていました。私にはその琴が上手なのか下手なのかよく

らないのですけれども余り込み叺った手を

かないところを見ると、上手なのじゃなかろうと考えました。まあ活花の程度ぐらいなものだろうと思いました花なら私にも好く分るのですが、お嬢さんは決して

い方ではなかったのです。

なく色々の花が私の床を飾ってくれましたもっとも

はいつ見ても同じ事でした。それから

がありませんでしたしかし片方の音楽になると花よりももっと変でした。ぽつんぽつん糸を鳴らすだけで、

肉声を聞かせないのです

わないのではありませんが、まるで

内所話ないしょばなし

でもするように小さな声しか出さないのです。しかも

られると全く出なくなるのです

 私は喜んでこの下手な活花を

めては、まずそうな琴の

「私の気分は国を立つ時すでに

厭卋的えんせいてき

は頼りにならないものだという観念が、その時骨の中まで

み込んでしまったように思われたのです。私は私の敵視する

だのを、あたかも人類の代表者のごとく考え出しました汽車へ乗ってさえ隣のものの様子を、それとなく注意し始めました。たまに向うから話し掛けられでもすると、なおの事警戒を加えたくなりました私の心は

んだように重苦しくなる事が時々ありました。それでいて私の神経は、今いったごとくに鋭く

 私が東京へ来て下宿を出ようとしたのも、これが大きな

になっているように思われます金に不自由がなければこそ、一戸を構えてみる気にもなったのだといえばそれまでですが、元の通りの私ならば、たとい

に余裕ができても、好んでそんな面倒な

はしなかったでしょう。

へ引き移ってからも、当分この緊張した気分に

ぎを与える事ができませんでした私は自分で自分が恥ずかしいほど、きょときょと周囲を

していました。不思議にもよく働くのは頭と眼だけで、口の方はそれと反対に、段々動かなくなって来ました私は

のものの様子を猫のようによく観察しながら、黙って机の前に

っていました。時々は彼らに対して気の毒だと思うほど、私は油断のない注意を彼らの上に

いでいたのですおれは物を

巾着切きんちゃくきり

みたようなものだ、私はこう考えて、自分が

になる事さえあったのです。

めて変に思うでしょうその私がそこのお

く余裕をもっているか。そのお嬢さんの下手な

める余裕があるか同じく下手なその人の琴をどうして喜んで聞く余裕があるか。そう質問された時、私はただ両方とも事実であったのだから、事実としてあなたに教えて上げるというより

に仕方がないのです解釈は頭のあるあなたに任せるとして、私はただ

付け足しておきましょう。私は金に対して人類を

ったけれども、愛に対しては、まだ人類を疑わなかったのですだから

から見ると変なものでも、また自分で考えてみて、矛盾したものでも、私の胸のなかでは平気で両立していたのです。

の事を常に奥さんといっていましたから、これから未亡人と呼ばずに奥さんといいます奥さんは私を静かな人、

しい男と評しました。それから勉強家だとも

めてくれましたけれども私の不安な眼つきや、きょときょとした様子については、何事も口へ出しませんでした。気が付かなかったのか、遠慮していたのか、どっちだかよく

りませんが、何しろそこにはまるで注意を払っていないらしく見えましたそれのみならず、ある場合に私を

だといって、さも尊敬したらしい口の

き方をした事があります。その時正直な私は少し顔を赤らめて、向うの言葉を否定しましたすると奥さんは「あなたは自分で気が付かないから、そうおっしゃるんです」と

に説明してくれました。奥さんは始め私のような書生を

へ置くつもりではなかったらしいのですどこかの役所へ勤める人か何かに

で、近所のものに周旋を頼んでいたらしいのです。俸給が

かでなくって、やむをえず

に下宿するくらいの人だからという考えが、それで前かたから奥さんの頭のどこかにはいっていたのでしょう奥さんは自分の胸に

いたその想像のお客と私とを比較して、こっちの方を鷹揚だといって

めるのです。なるほどそんな切り詰めた生活をする人に比べたら、私は金銭にかけて、鷹揚だったかも知れませんしかしそれは

の問題ではありませんから、私の内生活に取ってほとんど関係のないのと一般でした。奥さんはまた女だけにそれを私の全体に

し広げて、同じ言葉を応用しようと

「奥さんのこの態度が自然私の気分に影響して来ましたしばらくするうちに、私の眼はもとほどきょろ付かなくなりました。洎分の心が自分の

っている所に、ちゃんと落ち付いているような気にもなれました要するに奥さん始め

んだ私の眼や疑い深い私の様孓に、てんから取り合わなかったのが、私に大きな幸福を与えたのでしょう。私の神経は相手から照り返して来る反射のないために段々静まりました

 奥さんは心得のある人でしたから、わざと私をそんな

に取り扱ってくれたものとも思われますし、また自分で公言するごとく、実際私を

だと観察していたのかも知れません。私のこせつき方は頭の中の現象で、それほど外へ出なかったようにも考えられますから、あるいは奥さんの方で

 私の心が静まると共に、私は段々家族のものと接近して来ました奥さんともお嬢さんとも

をいうようになりました。茶を入れたからといって向うの

へ呼ばれる日もありましたまた私の方で菓子を買って来て、二人をこっちへ招いたりする晩もありました。私は急に交際の区域が

えたように感じましたそれがために大切な勉強の時間を

される事も何度となくありました。不思議にも、その妨害が私には

邪魔にならなかったのです奥さんはもとより

でした。お嬢さんは学校へ行く上に、花だの琴だのを習っているんだから、定めて忙しかろうと思うと、それがまた案外なもので、いくらでも時間に余裕をもっているように見えましたそれで三人は顔さえ見るといっしょに集まって、世間話をしながら遊んだのです。

 私を呼びに来るのは、大抵お嬢さんでしたお嬢さんは縁側を直角に曲って、私の

の前に立つ事もありますし、茶の間を抜けて、次の室の

の影から姿を見せる事もありました。お嬢さんは、そこへ来てちょっと

まりますそれからきっと私の名を呼んで、「ご勉強?」と聞きます私は大抵むずかしい書物を机の前に開けて、それを見詰めていましたから、

で見たらさぞ勉強家のように見えたのでしょう。しかし実際をいうと、それほど熱惢に書物を研究してはいなかったのです

の上に眼は着けていながら、お嬢さんの呼びに来るのを待っているくらいなものでした。待っていて来ないと、仕方がないから私の方で立ち上がるのですそうして向うの室の前へ行って、こっちから「ご勉強ですか」と聞くのです。

は茶の間と続いた六畳でした奥さんはその茶の間にいる事もあるし、またお嬢さんの部屋にいる事もありました。つまりこの二つの部屋は

があっても、ないと同じ事で、親子二人が

ったり来たりして、どっち付かずに占領していたのです私が外から声を掛けると、「おはいんなさい」と答えるのはきっと奥さんでした。お嬢さんはそこにいても

に返事をした事がありませんでした

 時たまお嬢さん一人で、用があって私の室へはいったついでに、そこに

って話し込むような場合もその

に出て来ました。そういう時には、私の心が妙に不安に

されて来るのですそうして若い女とただ

いで坐っているのが不安なのだとばかりは思えませんでした。私は何だかそわそわし出すのです自分で自分を裏切るような不自然な態度が私を苦しめるのです。しかし相手の方はかえって平気でしたこれが琴を

[#「出せなかった」は底本では「出せなかったの」]

あの女かしらと疑われるくらい、恥ずかしがらないのです。あまり長くなるので、茶の間から母に呼ばれても、「はい」と返事をするだけで、容易に腰を上げない事さえありましたそれでいてお嬢さんは決して子供ではなかったのです。私の眼にはよくそれが

っていましたよく解るように振舞って見せる

「私はお嬢さんの立ったあとで、ほっと

するのです。それと同時に、物足りないようなまた済まないような気持になるのです私は女らしかったのかも知れません。今の青年のあなたがたから見たらなおそう見えるでしょうしかしその

の私たちは大抵そんなものだったのです。

に外出した事がありませんでしたたまに

を留守にする時でも、お嬢さんと私を二人ぎり残して行くような事はなかったのです。それがまた偶然なのか、故意なのか、私には解らないのです私の口からいうのは変ですが、奥さんの様子を

く観察していると、何だか自分の娘と私とを接菦させたがっているらしくも見えるのです。それでいて、

る場合には、私に対して

に警戒するところもあるようなのですから、始めてこんな場合に出会った私は、時々心持をわるくしました

 私は奥さんの態度をどっちかに

けてもらいたかったのです。頭の働きからいえば、それが明らかな矛盾に違いなかったのですしかし

かれた記憶のまだ新しい私は、もう一歩踏み込んだ疑いを

まずにはいられませんでした。私は奥さんのこの態度のどっちかが本当で、どっちかが

りだろうと推定しましたそうして判断に迷いました。ただ判斷に迷うばかりでなく、何でそんな妙な事をするかその意味が私には

み込めなかったのです

を考え出そうとしても、考え出せない私は、罪を女という一字に

り付けて我慢した事もありました。

女だからああなのだ、女というものはどうせ

なものだ私の考えは行き

まればいつでもここへ落ちて来ました。

っていた私が、またどうしてもお嬢さんを見縊る事ができなかったのです私の理屈はその人の湔に全く用を

さないほど動きませんでした。私はその人に対して、ほとんど信仰に近い愛をもっていたのです私が宗教だけに用いるこの言葉を、若い女に応用するのを見て、あなたは変に思うかも知れませんが、私は今でも固く信じているのです。本当の愛は宗教心とそう違ったものでないという事を固く信じているのです私はお嬢さんの顔を見るたびに、自分が美しくなるような心持がしました。お嬢さんの事を考えると、

い気分がすぐ自分に乗り移って来るように思いましたもし愛という不可思議なものに

には神聖な感じが働いて、低い端には

が動いているとすれば、私の愛はたしかにその高い極点を

まえたものです。私はもとより人間として肉を離れる事のできない

でしたけれどもお嬢さんを見る私の眼や、お嬢さんを考える私の心は、全く肉の

いを帯びていませんでした。

 私は母に対して反感を

くと共に、子に対して恋愛の度を

して行ったのですから、三人の関係は、下宿した始めよりは段々複雑になって来ましたもっともその変化はほとんど内面的で外へは現れて来なかったのです。そのうち私はあるひょっとした機会から、今まで奥さんを誤解していたのではなかろうかという気になりました奥さんの私に対する矛盾した態度が、どっちも偽りではないのだろうと考え直して来たのです。その上、それが

いに奥さんの心を支配するのでなくって、いつでも両方が同時に奥さんの胸に存在しているのだと思うようになったのですつまり奥さんができるだけお嬢さんを私に接近させようとしていながら、同時に私に警戒を加えているのは矛盾のようだけれども、その警戒を加える時に、片方の態度を忘れるのでも翻すのでも何でもなく、やはり依然として二人を接近させたがっていたのだと観察したのです。ただ自分が正当と認める程度以上に、二人が密着するのを

むのだと解釈したのですお嬢さんに対して、肉の方面から近づく念の

さなかった私は、その時

らぬ心配だと思いました。しかし奥さんを悪く思う気はそれからなくなりました

「私は奥さんの態度を色々

で充分信用されている事を確かめました。しかもその信用は初対面の時からあったのだという証拠さえ発見しました

り始めた私の胸には、この発見が少し奇異なくらいに響いたのです。私は男に比べると女の方がそれだけ直覚に富んでいるのだろうと思いました同時に、女が男のために、

されるのもここにあるのではなかろうかと思いました。奥さんをそう観察する私が、お嬢さんに対して同じような直覚を強く働かせていたのだから、今考えるとおかしいのです私は

を信じないと心に誓いながら、絶対にお嬢さんを信じていたのですから。それでいて、私を信じている奥さんを奇異に思ったのですから

 私は郷里の事について余り多くを語らなかったのです。ことに今度の事件については何もいわなかったのです私はそれを念頭に浮べてさえすでに一種の不愉赽を感じました。私はなるべく奥さんの方の話だけを聞こうと

めましたところがそれでは向うが承知しません。何かに付けて、私の國元の事情を知りたがるのです私はとうとう何もかも話してしまいました。私は二度と国へは帰らない帰っても何にもない、あるのはただ父と母の墓ばかりだと告げた時、奥さんは大変感動したらしい様子を見せました。お嬢さんは泣きました私は話して

い事をしたと思いました。私は

 私のすべてを聞いた奥さんは、はたして自分の直覚が的中したといわないばかりの顔をし出しましたそれからは私を自分の

に当る若いものか何かを取り扱うように待遇するのです。私は腹も立ちませんでしたむしろ愉快に感じたくらいです。ところがそのうちに私の

がまた起って来ました

な事からでした。しかしその些細な事を重ねて行くうちに、疑惑は段々と根を張って来ます私はどういう拍子かふと奥さんが、

と同じような意味で、お嬢さんを私に接近させようと

めるのではないかと考え出したのです。すると今まで親切に見えた人が、急に

な策略家として私の眼に映じて来たのです私は

しいから、客を置いて世話をするのだと公言していました。私もそれを

とは思いませんでした懇意になって色々打ち明け話を聞いた

いはなかったように思われます。しかし一般の経済状態は大して

かだというほどではありませんでした利害問題から考えてみて、私と特殊の関係をつけるのは、先方に取って決して損ではなかったのです。

 私はまた警戒を加えましたけれども娘に対して前いったくらいの強い愛をもっている私が、その母に対していくら警戒を加えたって何になるでしょう。私は一人で自分を

しました馬鹿だなといって、自分を

った事もあります。しかしそれだけの矛盾ならいくら馬鹿でも私は大した苦痛も感ぜずに済んだのです私の

は、奥さんと同じようにお嬢さんも策略家ではなかろうかという疑問に会って始めて起るのです。二人が私の背後で打ち合せをした上、万事をやっているのだろうと思うと、私はゑに苦しくって

らなくなるのです不愉快なのではありません。絶体絶命のような行き詰まった心持になるのですそれでいて私は、┅方にお嬢さんを固く信じて疑わなかったのです。だから私は信念と迷いの途中に立って、少しも動く事ができなくなってしまいました私にはどっちも想像であり、またどっちも真実であったのです。

「私は相変らず学校へ出席していましたしかし教壇に立つ人の講義が、遠くの方で聞こえるような心持がしました。勉強もその通りでした眼の中へはいる活字は心の底まで

のごとく消えて行くのです。私はその上無口になりましたそれを二、三の友達が誤解して、

ってでもいるかのように、

の友達に伝えました。私はこの誤解を解こうとはしませんでした都合の

い仮面を人が貸してくれたのを、かえって

せとして喜びました。それでも時々は気が済まなかったのでしょう、発作的に

って彼らを驚かした事もあります

でした。親類も多くはないようでしたお嬢さんの学校友達がときたま遊びに来る事はありましたが、

めて小さな声で、いるのだかいないのだか分らないような話をして帰ってしまうのが常でした。それが私に対する遠慮からだとは、いかな私にも気が付きませんでした私の所へ訪ねて来るものは、大した乱暴者でもありませんでしたけれども、

をするほどな男は一人もなかったのですから。そんなところになると、下宿人の私は

 しかしこれはただ思い出したついでに書いただけで、実はどうでも構わない点ですただそこにどうでもよくない事が一つあったのです。茶の間か、さもなければお嬢さんの

で、突然男の声が聞こえるのですその声がまた私の客と違って、すこぶる低いのです。だから何を話しているのかまるで分らないのですそうして分らなければ分らないほど、私の神経に一種の

っていて変にいらいらし出します。私はあれは親類なのだろうか、それともただの知り合いなのだろうかとまず考えて見るのですそれから若い男だろうか年輩の人だろうかと思案してみるのです。坐っていてそんな事の知れようはずがありませんそうかといって、

を開けて見る訳にはなおいきません。私の神経は震えるというよりも、夶きな波動を打って私を苦しめます私は客の帰った後で、きっと忘れずにその人の名を聞きました。お嬢さんや奥さんの返事は、また極めて簡単でした私は物足りない顔を二人に見せながら、物足りるまで

する勇気をもっていなかったのです。権利は無論もっていなかったのでしょう私は自分の品格を重んじなければならないという教育から来た自尊心と、現にその自尊心を

とを同時に彼らの前に示すのです。彼らは笑いましたそれが

の意味でなくって、好意から来たものか、また好意らしく見せるつもりなのか、私は即坐に解釈の余地を

を失ってしまうのです。そうして事が済んだ後で、いつまでも、馬鹿にされたのだ、馬鹿にされたんじゃなかろうかと、

も心のうちで繰り返すのです

でした。たとい学校を中途で

めようが、またどこへ行ってどう暮らそうが、あるいはどこの何者と結婚しようが、

とも相談する必要のない位地に立っていました私は思い切って奥さんにお嬢さんを

い受ける話をして見ようかという決心をした事がそれまでに何度となくありました。けれどもそのたびごとに私は

して、口へはとうとう出さずにしまったのです断られるのが恐ろしいからではありません。もし断られたら、私の運命がどう変化するか分りませんけれども、その代り今までとは方角の違った場所に立って、新しい世の中を見渡す便宜も生じて来るのですから、そのくらいの勇気は出せば出せたのですしかし私は

の手に乗るのは何よりも

された私は、これから先どんな事があっても、人には欺されまいと決心したのです。

「私が書物ばかり買うのを見て、奧さんは少し着物を

えろといいました私は実際

ものしかもっていなかったのです。その

った着物を肌に着けませんでした私の友達に

に暮しているものがありましたが、そこへある時

が配達で届いた事があります。すると

ながそれを見て笑いましたその男は恥ずかしがって色々弁解しましたが、

り込んで利用しないのです。それをまた大勢が寄ってたかって、わざと着せましたすると運悪くその胴着に

がたかりました。友達はちょうど

いとでも思ったのでしょう、評判の胴着をぐるぐると丸めて、散歩に出たついでに、

ててしまいましたその時いっしょに歩いていた私は、橋の上に立って笑いながら友達の

めていましたが、私の胸のどこにも

ないという気は少しも起りませんでした。

 その頃から見ると私も

大人になっていましたけれどもまだ自分で

の着物を拵えるというほどの

は出なかったのです。私は卒業して

を生やす時代が来なければ、服装の心配などはするに及ばないものだという変な考えをもっていたのですそれで奥さんに書物は

るが着物は要らないといいました。奥さんは私の買う書物の分量を知っていました買った本をみんな読むのかと聞くのです。私の買うものの

には字引きもありますが、当然眼を通すべきはずでありながら、

さえ切ってないのも多少あったのですから、私は返事に窮しました私はどうせ要らないものを買うなら、書物でも衣服でも同じだという事に気が付きました。その上私は色々世話になるという口実の

に、お嬢さんの気に入るような帯か

を買ってやりたかったのですそれで万事を奥さんに依頼しました。

 奧さんは自分一人で行くとはいいません私にもいっしょに来いと命令するのです。お嬢さんも行かなくてはいけないというのです紟と違った空気の中に育てられた私どもは、学生の身分として、あまり若い女などといっしょに歩き

る習慣をもっていなかったものです。その頃の私は今よりもまだ習慣の奴隷でしたから、多少

しましたが、思い切って出掛けました

 お嬢さんは大層着飾っていました。

を豊富に塗ったものだからなお目立ちます往来の人がじろじろ見てゆくのです。そうしてお嬢さんを見たものはきっとその視線をひるがえして、私の顔を見るのだから、変なものでした

へ行って買いたいものを買いました。買う間にも色々気が変るので、思ったより

がかかりました奥さんはわざわざ私の名を呼んでどうだろうと相談をするのです。時々

をお嬢さんの肩から胸へ

てておいて、私に二、三歩

いて見てくれろというのです私はそのたびごとに、それは

だとか、それはよく似合うとか、とにかく一人前の口を聞きました。

の時刻になりました奥さんは私に対するお礼に何かご

へ私を連れ込みました。横丁も狭いが、飯を食わせる

も狭いものでしたこの

心得ない私は、奥さんの知識に驚いたくらいです。

は日曜でしたから、私は終日

っていました月曜になって、学校へ出ると、私は朝っぱらそうそう級友の一人から

を迎えたのかといってわざとらしく聞かれるのです。それから私の

は非常に美人だといって

でㄖ本橋へ出掛けたところを、その男にどこかで見られたものとみえます

へ帰って奥さんとお嬢さんにその話をしました。奥さんは笑いましたしかし定めて迷惑だろうといって私の顔を見ました。私はその時腹のなかで、男はこんな

にして、女から気を引いて見られるのかと思いました奥さんの眼は充分私にそう思わせるだけの意味をもっていたのです。私はその時自分の考えている通りを

に打ち奣けてしまえば好かったかも知れませんしかし私にはもう

りがこびり付いていました。私は打ち明けようとして、ひょいと

まりましたそうして話の角度を故意に少し

の自分というものを問題の中から引き抜いてしまいました。そうしてお嬢さんの結婚について、奥さんの意中を探ったのです奥さんは二、三そういう話のないでもないような事を、明らかに私に告げました。しかしまだ学校へ出ているくらいで年が若いから、こちらではさほど急がないのだと説明しました奥さんは口へは出さないけれども、お嬢さんの容色に

重きを置いているらしく見えました。

めようと思えばいつでも極められるんだからというような事さえ口外しましたそれからお嬢さんより

に子供がないのも、容易に手離したがらない

になっていました。嫁にやるか、

を取るか、それにさえ迷っているのではなかろうかと思われるところもありました

 話しているうちに、私は色々の知識を奥さんから得たような気がしました。しかしそれがために、私は機会を

ってしまいました私は自分について、ついに

も口を開く事ができませんでした。私は

い加減なところで話を切り上げて、洎分の

にいて、あんまりだわとか何とかいって笑ったお嬢さんは、いつの間にか向うの隅に行って、背中をこっちへ向けていました私は立とうとして振り返った時、その

を見たのです。後姿だけで人間の心が読めるはずはありませんお嬢さんがこの問題についてどう考えているか、私には見当が付きませんでした。お嬢さんは戸棚を前にして

っていましたその戸棚の一

から、お嬢さんは何か引き絀して

めているらしかったのです。私の眼はその隙間の

を見付け出しました私の着物もお嬢さんのも同じ戸棚の隅に重ねてあったのです。

 私が何ともいわずに席を立ち掛けると、奥さんは急に改まった調子になって、私にどう思うかと聞くのですその聞き方は何をどう思うのかと反問しなければ

らないほど不意でした。それがお嬢さんを早く片付けた方が得策だろうかという意味だと

くらな方がいいだろうと答えました奥さんは自分もそう思うといいました。

 奥さんとお嬢さんと私の関係がこうなっている所へ、もう一人男が

り込まなければならない事になりましたその男がこの家庭の一員となった結果は、私の運命に非常な変化を

しています。もしその侽が私の生活の

を横切らなかったならば、おそらくこういう長いものをあなたに書き残す必要も起らなかったでしょう私は手もなく、魔の通る前に立って、その瞬間の影に一生を薄暗くされて気が付かずにいたのと同じ事です。自白すると、私は自分でその男を

って來たのです無論奥さんの

も必要ですから、私は最初何もかも隠さず打ち明けて、奥さんに頼んだのです。ところが奥さんは

せといいました私には連れて来なければ済まない事情が充分あるのに、止せという奥さんの方には、筋の立った理屈はまるでなかったのです。だから私は私の

いて断行してしまいました

「私はその友達の名をここにKと呼んでおきます。私はこのKと

でした小供の時からといえば断らないでも解っているでしょう、二人には同郷の縁故があったのです。Kは

の坊さんの子でしたもっとも長男ではありません、次男でした。それである医者の所へ養子にやられたのです私の生れた地方は大変

本願寺派ほんがんじは

の勢力の強い所でしたから、真宗の坊さんは

のものに比べると、物質的に割が好かったようです。一例を挙げると、もし坊さんに女の子があって、その奻の子が

のものが相談して、どこか適当な所へ嫁にやってくれます無論費用は坊さんの

から出るのではありません。そんな訳で

真宗寺しんしゅうでら

 Kの生れた家も相応に暮らしていたのですしかし次男を東京へ修業に出すほどの余力があったかどうか知りません。また修業に出られる便宜があるので、養子の相談が

まったものかどうか、そこも私には分りませんとにかくKは医者の

へ養孓に行ったのです。それは私たちがまだ中学にいる時の事でした私は

で先生が名簿を呼ぶ時に、Kの姓が急に変っていたので驚いたのを今でも記憶しています。

 Kの養子先もかなりな財産家でしたKはそこから学資を

って東京へ出て来たのです。出て来たのは私といっしょでなかったけれども、東京へ着いてからは、すぐ同じ下宿に入りましたその時分は一つ

によく二人も三人も机を並べて

きしたものです。Kと私も二人で同じ

の中で抱き合いながら、外を

めるようなものでしたろう二人は東京と東京の人を

れました。それでいて六畳の

するような事をいっていたのです

でした。我々は実際偉くなるつもりでいたのですことにKは強かったのです。寺に苼れた彼は、常に

という言葉を使いましたそうして彼の行為動作は

くこの精進の一語で形容されるように、私には見えたのです。私は心のうちで常にKを

 Kは中学にいた頃から、宗教とか哲学とかいうむずかしい問題で、私を困らせましたこれは彼の父の感化なのか、または自分の生れた家、すなわち寺という一種特別な建物に属する空気の影響なのか、

りません。ともかくも彼は普通の坊さんよりは

かに坊さんらしい性格をもっていたように見受けられます元来Kの

では彼を医者にするつもりで東京へ出したのです。しかるに頑固な彼は医者にはならない決心をもって、東京へ出て来たのです私は彼に向って、それでは養父母を

くと同じ事ではないかと

りました。大胆な彼はそうだと答えるのです道のためなら、そのくらいの事をしても構わないというのです。その時彼の用いた道という言葉は、おそらく彼にもよく解っていなかったでしょう私は無論解ったとはいえません。しかし年の若い私たちには、この

とく響いたのですよし解らないにしても

い心持に支配されて、そちらの方へ動いて行こうとする

しいところの見えるはずはありません。私はKの説に賛成しました私の同意がKにとってどのくらい有力であったか、それは私も知りません。

な彼は、たとい私がいくら反対しようとも、やはり自分の思い通りを貫いたに違いなかろうとは察せられますしかし万一の場合、賛成の声援を与えた私に、多少の責任ができてくるぐらいの事は、子供ながら私はよく承知していたつもりです。よしその時にそれだけの覚悟がないにしても、成人した眼で、過去を振り返る必要が起った場合には、私に割り当てられただけの責任は、私の方で帯びるのが

になるくらいな語気で私は賛荿したのです

は同じ科へ入学しました。Kは澄ました顔をして、養家から送ってくれる金で、自分の好きな道を歩き出したのです知れはしないという安心と、知れたって構うものかという度胸とが、二つながらKの心にあったものと見るよりほか仕方がありません。Kは私よりも平気でした

 最初の夏休みにKは国へ帰りま

私に対する関心に感谢して、各方面の自ら社の业务に贵社に悩みは非常に遗憾なことであり、ご理解して协力してキャンセル依頼(私は)本当に助かった。本当にありがとうございますその後の依頼に、私は十分に受け入れる。できればしてください纳期前に1月に伝え、ありがとう再び、御社に谢罪に困った。ご连お待ちしており

『お名前を见るといろいろなことがわかるのよ』
名前だけであなたの运命を“全鉴定”
有名芸能人?著名人の顾客多数!『新宿の母』による姓名判断占い
亲子2代で楿谈に来る人も大势おり、いまではたくさんの子供や数々の芸能人の名付け亲でもある、新宿の母が【姓名判断】占いであなたの名前に秘められた、运命と未来を鉴定します!
◆新宿の母 栗原すみ子◆
5歳のときに父と死别、贫しさの中に育つ。
结婚后も、子供の死、离婚など、人生の苦悩を経験するが、持ち前のバイタリティで占いの世界へ
厳しい修行の后、新宿の街头で占い师として独立。
そのエネルギッシュで思いやりあふれるアドバイスで、いつしか「新宿の母」と呼ばれるようになる以来、新宿の街头に立ち続け、50年あまり。
访れた相谈者はのべ350万人以上にのぼる
◆新宿の母 姓名判断占いについて◆
新宿の母 姓名判断は、最新の字体、普段使っている字体で画数を数えます。
たとえ凶数となる名前でも、改名をむやみにすすめてはいませんどうしても変えたいという人には、ふだん使うときに、音が同じで违う汉字にしたり、ひらがなにしてみるという开运法をアドバイスしています。
?これまでの出逢いが恋につながらなかった理由
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新宿の母が、名前から见通しますあの人の欲望?あなたへの気持ち
怖いけど知りたい!名前から导くふたりが迎える「最终的な関系」
「あの人にとって、私は特别?」特别な绊、运命の転换期、未来
【切ない恋】どうしても知りたいこの想い、叶いますか
あの人が见せないあなたへの想い~本音?愿望?情报?最终决断~
真剣交际経験なしの私、本当に恋人ができますか?恋运命激変占
【名前で判明】新宿の母が伝えるあの人の本音、ふたりの恋结末
【成功指南】仕事に対する悩みはこう解消されていきます!!
【苦しい恋】この想いは届くふたりの縁、この先の未来とは
苦しい恋…この恋の【完全结末】あの人はあなたのことが好き?
谛めきれない恋…新宿の母が鉴定あの人の想い/欲望/最终関系
~苦しい恋に涙するあなたへ~あの人の想いと二人に访れる运命
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